日本企業の米国進出や現地法人・支社立ち上げに伴い、米国内で従業員を採用する場面が増えています。しかし、日本とは異なる厳密な雇用・税務ルールが存在するため、正確かつ準備周到な対応が必要不可欠です。今回は、税務や給与面において必ず押さえておきたいポイントを解説します。
1. 法的枠組みと雇用形態の選び方
W‑2従業員 vs 1099独立請負人(Independent Contractor)
・W‑2従業員
企業が社会保険(Social Security、Medicare)、連邦・州税の源泉徴収などを直接管理します。雇用主責任が生じ、法的保護も手厚い形態です。
※ W-2(Wage and Tax Statement):雇用主が従業員に支払った年間の給与と源泉徴収された税金をまとめたフォーム
・1099独立請負人(Independent Contractor)
請負人が自ら税金や社会保険を自己申告・支払いします。柔軟な業務委託が可能ですが、本当に「独立請負人」に該当するかの判断は厳格です。実態が「従業員的」であると、IRSから罰則対象になるケースもあります。
※1099:会社が従業員以外の独立請負人などに支払った報酬や報奨金などを報告するための税務フォーム
ポイント:役割、勤務時間、業務のコントロールなどで判断。形式だけでなく実態に応じた分類が重要となります。
2. 税務上の留意点:給与・納税管理
・給与支払い方法と源泉徴収の仕組み
雇用主は連邦所得税・州所得税を源泉徴収し、社会保険料(Social Security/Medicare Tax)は雇用主と従業員がそれぞれ負担し、雇用主が代わりに納付します。
州によっては州障害保険税(SDI – State Disability Insurance Tax)や職業訓練関連税(例:Employment Training Tax)などが課されることもあります。
・W-2従業員への年末税フォームの発行
雇用主は翌年1月31日までに Form W-2 を従業員へ交付し、同日までに IRS および社会保障局(SSA)へ提出する必要があります。
・州・地方レベルでの特別な課税対応
州や自治体により、給与税率や申告方法、ネクサス(課税関係の有無)の判定基準が異なります。複数州にまたがる採用やリモート勤務では、より慎重な管理が求められます。
3. 地方自治体・雇用保険制度の違い
・State Unemployment Insurance(SUI /失業保険):州によって税率や算定基準が違うため、適切な登録と納付が求められます。
・Workers’ Compensation(労災保険):多くの州で、従業員を雇用する場合は加入が義務付けられています。
・州によっては独自の有給家族休暇(Paid Family Leave)や有給病気休暇(Paid Sick Leave)制度が義務化されており、対応漏れは罰金・行政ペナルティの対象となる場合があります。
4. その他の重要ポイントとリスク管理
・従業員データのプライバシー保護
個人情報保護法は州により異なり、米国で個人を特定するための社会保障番号 であるSSN(Social Security Number)や個人連絡先などの高度な個人情報管理は特に慎重な管理が求められます。
・退職プラン・福利厚生の導入可否
退職金制度である 401(k)、Health Insurance、Dental / Vision プランなどの導入は採用時の魅力ですが、プラン設計・運営には専門的な知識と法律的整備が必要です。
・リモートワーカーへの対応
従業員が日本や他州からリモート勤務する場合、どの州で納税・社会保険手続きが発生するかを明確に理解して対応することが欠かせません。
さいごに
米国内で従業員を雇用するには、雇用法、税務、福利厚生制度、プライバシー法など多岐にわたる規制を正確に理解し、制度的に整備する必要があります。特に複数州にまたがる採用、リモート業務、外国籍従業員の採用などが絡む場合、対応設計はさらに高度になります。
専門性の高い会計士・給与代行・弁護士との連携を早期に図り、適正かつリスクの少ない雇用体制の構築を目指しましょう。
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