内部統制は、単なる不正防止や業務効率化の仕組みにとどまらず、企業経営の信頼性を支える重要な基盤です。特に経営者の行動は、内部統制の有効性に直接影響を与えます。経営者が内部統制を軽視または無視する場合、企業は重大なリスクに直面することになります。
米国子会社において、親会社から派遣された現地社長やCEOが内部統制を軽視するケースでは、財務報告の信頼性や法令遵守に関するリスクが顕在化します。財務諸表監査においても、経営者による統制無視は重要なリスク要因として特定される可能性が高く、監査上の注目点となります。
経営者による内部統制無視の典型例
内部統制は、承認プロセスや職務分掌など、相互牽制の仕組みによって成り立っています。しかし、経営者は権限を集中して持つため、これらの仕組みを迂回して意思決定を行うことが可能です。以下は、経営者による統制無視の具体例です。
- 承認プロセスの逸脱
- 自分の旅費を自分で承認する。自身の旅費を自ら承認する。
- 高額契約や新規取引を、役員会や取締役会の承認を経ずに独断で決定する。
- 経理処理への不適切な介入
- 業績を良く見せるために、売上金額の上方修正を指示する。
- 費用の計上を先送りし、粉飾決算を行う。
- 経理担当者の反対を押し切り、「トップの判断」として処理を強行する
このような経営者による統制無視は、従業員レベルの違反よりもはるかに深刻です。経営者の影響力が大きいため、周囲が異議を唱えにくく、不正や誤った判断が組織全体に波及するリスクがあります。
経営者による統制無視に対する対応
米国子会社において、経営者による統制無視を防ぐためには、制度的かつ実効性のある対応が不可欠です。以下に主な対応策を示します
- コーポレートガバナンスの強化
高額支出や契約、関連会社取引については、役員会や親会社の承認を必須とするルールを明文化する。
- 内部監査
親会社から定期的に内部監査を受け、内部監査で 重要な指摘事項は米国子会社の経営者や経理部に報告して改善を図る。
- 通報制度(ホットライン)の整備
従業員が経営者や他の従業員の不適切行為を匿名で報告できる体制を構築する。
- 財務・会計上のレビュー体制
経理・財務報告は親会社の基準でレビューし、経営者の介入がないか確認する。また、 米国子会社も会計監査を受け、経営者の統制無視や不正リスクがないか確認する。
- 内部統制に関する教育の徹底
経営者を含む全社員に対し、内部統制の目的と重要性を定期的に教育する。
おわりに
米国子会社では、経営者の統制無視が直接SOX対応や財務報告の信頼性に影響するため、形式的な統制だけでなく実効性を伴う制度整備と、親会社との報告・監視体制が不可欠です。
内部統制に関しましてご質問等ございましたらCDH会計事務所の中尾 tnakao@cdhcpa.com までお問い合わせください。




