「ちゃんと納税したはずなのに、IRSから延滞ペナルティの通知が届いた…」
米国でビジネスを行う日本企業や経営者にとって、税金の納付方法は見落とされがちな落とし穴です。とくに、法人税や給与税の支払いには「EFTPS(電子納税システム)」の利用が事実上必須となっており、従来の小切手や銀行送金では正しく処理されないケースもあります。本記事では、EFTPSの正しい登録方法・スケジュール管理・よくあるトラブル事例を踏まえながら、米国法人として知っておくべき実務ポイントをわかりやすく解説します。
1. EFTPSとは?米国法人にとっての「納税インフラ」
● EFTPSはIRSが管理する「公式納税ポータル」
EFTPS (Electric Federal Tax Payment System) は、米国財務省が提供する電子納税システムです。企業・個人問わず、米国で納税義務のあるすべての納税者が無料で利用できます。操作はオンラインまたは電話でも可能ですが、主にウェブでの利用が主流です。
● 利用が「義務」になる場合もある
法人の場合、たとえ小規模ビジネスであっても、IRS(内国歳入庁)はEFTPSによる納税を推奨しており、場合によっては義務化されています。特に、法人税(Form 1120)の予定納税(Estimated Tax)や源泉徴収(Form 941など)の納付には、EFTPSの利用が基本となります。
例えば、
- Quarterly Estimated Tax(四半期予定納税)
- Employment Taxes(給与にかかる源泉徴収税)
- Excise Tax(物品税)
などは、小切手や銀行振込では認められず、EFTPSでの納税が前提となっているケースが多いです。
2. EFTPSの登録ステップと落とし穴
● 登録には「時間」がかかる
EFTPSの利用は事前登録が必要です。ここで重要なのは、登録完了までに最低1週間以上かかるという点です。
登録プロセス:
- EFTPSの公式サイト(www.eftps.gov)からオンライン申請
- EIN(法人番号)と法人名義の銀行口座情報を入力
- 約7日以内にIRSからPIN(個人識別番号)付きのレターが郵送される
- 初期ログインとパスワード設定
注意点:
- 郵送はアメリカ国内住所宛て。日本宛てにすると数週間以上かかることも。
- 銀行口座が法人名義でないと登録できない(個人名義NG)
- 登録情報とIRS記録の法人名義・住所が微妙にズレているとPINが届かない
「明日納税しなきゃ!」というタイミングでEFTPSを使おうとしても、間に合わないのです。
● 実務でよくあるトラブル例
- 口座情報の誤入力で登録できなかった
- 法人名がIRS記録と一致せず、PINが届かなかった
- 登録はしたがパスワード設定を忘れ、ログインできず納税遅延
いずれも、結果として納税遅延 → ペナルティ発生という流れにつながりかねません。
3. EFTPSでの納税スケジュールと「時間の罠」
EFTPSでは、納税日を事前にスケジューリングする必要があります。
● 「当日払い」はできない
EFTPSでは、翌営業日以降の納付スケジュールしか設定できません。つまり、支払い日当日にログインして操作しても、その日の納税には間に合わないのです。
- スケジュール登録締切:納付日前日の東部時間20:00(中部時間なら19:00)
- 納税期日が祝日や週末の場合、期日は翌営業日まで延期されますが、支払い手続き自体は祝日や週末前の営業日までに完了させておく必要があります。
4. アカウントの無効化リスクと再登録手続き
● 18ヶ月間利用がないとアカウントが停止される
米国財務省はセキュリティ上の理由から、EFTPSアカウントで18ヶ月間支払いの履歴がない場合、自動的にアカウントを停止します。この措置により、アカウントはシステムから完全に削除され、単に再ログインするだけでは復旧できません。
● アカウント停止後は「新規登録」が必要
一度停止されたアカウントを再び使用するには、新規登録手続きを最初から行う必要があります。
再登録の流れ:
- EFTPS公式サイトまたは電話で再登録手続きを開始
- 約5〜10営業日以内に、新しいPIN(個人識別番号)が登録住所に郵送される
- PINを受け取った後、初回ログインして新しいパスワードを設定
5. Fiscal Year(事業年度)とTax Period(課税期間)の誤入力に注意
● Fiscal Year採用法人は「Tax Period」の指定ミスに要注意
日本企業の米国法人では、3月末決算など、カレンダー年と異なるFiscal Yearを採用しているケースが一般的です。このような法人がEFTPSで納税する際には、「Tax Period(課税期間)」の入力に細心の注意が必要です。
例:
事業年度が2025年4月1日~2026年3月31日の場合 → 「Tax Period」は2026を入力
該当期の法人税申告書に記載される年は期首のため、2025になりますが、EFTPSで誤って2025と入力すると、支払いが誤適用される可能性があります。
● 誤入力の影響と対処法
- IRSが支払いを正しく適用できず、未納扱いとなるリスク
- 延滞利息やペナルティの対象となる可能性あり
- 修正にはIRSへの連絡と手続きが必要(時間がかかります)
- 万が一還付金として払い戻されたとしてもすぐに入金しない
Fiscal Year採用法人は、毎回納税前に正しいTax Periodを確認する習慣をつけましょう。不明な場合は、会計士・税理士に事前相談することが確実です。
EFTPSは単なる「納税ツール」ではなく、税務コンプライアンスを支える重要なインフラです。登録の遅れや運用ミス、Tax Periodの入力ミスなど、小さなミスが大きなリスクにつながるため、正しい知識と体制整備が欠かせません。「まだ使っていない」「登録したまま放置している」という方は、ぜひ一度運用状況を見直してみてください。ご不明点や不安な点があれば、当事務所までお気軽にご相談ください。納税の「見えないリスク」を、確実にカバーするお手伝いをいたします。
記事に関するご質問は、柴原 舞(mshibahara@cdhcpa.com)まで。
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