「出国税」と聞くと、国を離れる人への“罰金”のように思う人もいるかもしれません。けれど、その目的は罰ではなく、社会との関係を整理することにあります。出国税は、“国を離れる自由”を奪うものではありません。むしろ、その自由を責任とともに終えるための仕組みといえるでしょう。
私たちは、生まれた瞬間から社会の中で生きています。教育や医療、安全やインフラ・・・日々の暮らしは多くの制度や仕組みに支えられています。一方で、人生のある段階で、自らの意思で生活の場を選ぶ機会もあります。アメリカで暮らす日本人の生活もまた、アメリカ社会の仕組みに支えられています。そして、その地を離れるときには、これまでの関りを一度きちんと整理する時が訪れます。
アメリカの出国税は、グリーンカードを長く保持していた人がそれを返すとき、またはアメリカ市民が市民権を手放すときに適用されます。これまで築いた資産のうち、まだ売却していないものについても、「今ここで売却したら」と仮定して税を計算します。それは、「ここまでがアメリカ社会と共有してきた利益です」という、けじめの線引きのようなものと言えるかもしれません。
出国税の申告書に署名するその一筆には、単なる書類作業を超えた意味があるように思われます。これまでの関係を整理し、次のステージに進むための意思表明のようなものだと捉えます。国を離れることは、新しい人生の始まりであると同時に、これまでの社会とのつながりを丁寧に終えることでもあります。税務の現場では、そんな節目に立つ多くの人の姿を見ます。誰も見ていないところで正直に報告する人、複雑な申告に地道に真摯に向き合う人。そうした一つひとつの姿勢の中に、社会が成り立つ理由があるように思います。
出国税は、社会との関係を整理し、次の暮らしに向かうための通過点です。アメリカを離れ、日本に帰国するという決断には、多くの思いと時間、覚悟が込められています。その過程には、挑戦と努力、そして静かな勇気があったと思います。本帰国という選択に辿り着いた方々に、心から「お疲れさまでした」と伝えたいと思います。
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