“偶発的アメリカ人”とは、米国で生まれたために米国市民権を持つが、米国でほとんど、あるいは全く過ごしたことがなく、自分自身を米国人とは思っていないかもしれない個人を指す言葉としてよく使われます。米国は、米国憲法修正第14条に記載されているように、jus soli(出生地主義)の原則に従っています。つまり、米国内で生まれたほぼすべての人は、両親の国籍や移民状況にかかわらず、出生時に自動的に米国籍を付与されるのです。

 

例えば、米国で他国(日本など)の市民権を持つ両親の間に子供が生まれ、その子供が生まれた直後に家族がその国(日本)に戻った場合、米国の出生地主義(ラテン語のjus soli、英語のbirthright citizenship、bornright citizenship)のルールにより、その子供は米国市民となります。このような子供は、米国とほとんど関わりを持たずに成長しても、米国籍をもつ米国人であり、同時に日本国籍をもつ日本人という二重国籍者となります。このような人が “Accidental American”、“偶然のアメリカ人”、“偶発的アメリカ人”と呼ばれます。

 

この言葉は、米国の税制に関する議論の文脈でよく使われます。米国は、国民がどこに住んでいようと、全世界の所得に対して課税する数少ない国の一つです。そのため、「偶発的アメリカ人」は、他の国に住んでいて米国と大きな関係がなくても、米国の納税義務の対象となることがあります。このことは、特に複雑な米国の税法に予期せず従うことになった人たちにとって、論争や議論の的になっています。

 

<どんな場合に偶発的アメリカ人になるのか>

 

この偶発的アメリカ人、いってみれば、たまたまアメリカ人になってしまうシナリオをあげてみます。

 

日本国籍の夫婦を想像してみましょう。駐在員あるいは大学研究者の夫が米国で数年間の仕事をするため、夫婦は米国に居住しています。アメリカ居住中に、二人の間に赤ちゃんが生まれました。出生地主義(jus soli)の原則に基づき、彼らの子供は米国内で生まれたため、自動的に米国市民となります。1年後、この家族は日本へ帰国します。子供は日本で育ち、日本語を第一言語として話し、文化的に日本人であることを認識します。両親が子供のために米国のパスポートを取得したりしなければ、この子供は自分が米国籍を持っていることにすら気づかないかもしれません。例えば、銀行口座開設時(外国口座税務コンプライアンス法・FATCAにより、銀行は米国市民権を持っているかどうかを尋ねる義務があるため)、ビザ申請時、税金申告時など、後になって初めて「偶然のアメリカ人」であることを知るかもしれません。米国には、米国人の居住地や収入源に関係なく、全世界の所得に対して課税するという法律があるのです。

 

<もし、自分が偶発的アメリカ人であることがわかったら?>

 

もし、自分が「偶発的アメリカ人」であることがわかったら、次のような方法を検討することができると思います:

 

1.税務の専門家に相談する:これが最初のステップとなるはずです。米国内国歳入庁(IRS)に対するあなたの義務について、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

 

2.自分の納税義務について理解する: 米国市民は、居住地に関係なく、通常、米国の税務申告を行い、支払うべき税金を支払うことが義務付けられています。これは、日本でも税金を支払う必要がある場合でも同様です。しかし、米国での納税額を減らす、またはなくすことができるいくつかの免除や控除があります。外国人所得控除や外国税額控除などです。これらの規定を理解し、自分にどのように適用されるかについては、税務専門家に相談する必要があります。

 

3.FATCA と FBAR の報告について調べる: 外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)および米国外銀行・金融口座報告書(FBAR)は、米国の納税者に特定の外国金融口座およびオフショア資産の報告を求めています。これらの規制の下での報告義務について理解しておく必要があります。

 

4.米国の社会保障ソーシャルセキュリティとメディケアについて調べる: 日本で働き、税金を納めている場合、米国の社会保障制度やメディケア制度に納めていない可能性があります。このことは、後年、これらの給付を受ける資格に影響を与える可能性があります。

 

5.米国籍を放棄離脱する: 偶発的なアメリカ人の中には、税金の影響を避けるために、米国籍を放棄離脱することを選択する人もいます。しかし、これは重大な決断であり、重大な結果をもたらす可能性があります。市民権の放棄離脱には、多額の手数料や「出国税」の可能性など、費用が発生する可能性があります。また、市民権の放棄離脱は、将来的に米国への渡航や居住に影響を与える可能性があります。このステップに進む前に、法律の専門家に相談することが非常に重要です。

 

米国籍の放棄離脱に関する公式の最新情報については、米国国務省のウェブサイトやその他の政府の公式リソースを参照してください。

 

参考文献

米国国務省 – 海外での米国籍離脱について:

https://travel.state.gov/content/travel/en/legal/travel-legal-considerations/us-citizenship/Renunciation-US-Nationality-Abroad.html

米国内国歳入庁(U.S. Internal Revenue Service)-国外転出税(Expatriation Tax):

https://www.irs.gov/individuals/international-taxpayers/expatriation-tax

外国口座税務コンプライアンス法(FATCA):

https://www.irs.gov/businesses/corporations/foreign-account-tax-compliance-act-fatca

 

CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ずエンゲージメントレターを交わした上で税務・法務などの専門家に相談をしてください。

 

初回無料のRoadmap Session (35分) も受け付けています。下記からお申込みください。

https://outlook.office365.com/owa/calendar/[email protected]/bookings/

CDHの税務サービスについては、https://www.cdhcpa.com/ja/cross-border-individual-tax/

税務などの最新ブログをご覧になりたい方は、https://www.cdhcpa.com/ja/news/

最新ニュース満載のNewsletterを毎月受け取られたい方は、https://www.cdhcpa.com/login/