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今回は、帰国の際の3つの選択肢として、税務面を中心にグリーンカードの放棄、グリーンカードの維持、そして最後に米国籍の取得を考えてみたいと思います。

この決断はとても重大な決断です。慎重に考えて決断をしてください。例えば米国籍を取得することは、日本国籍の消失を意味します。いったん取得した米国籍を放棄したら、自分が無国籍の人になっているなどのことも起こり得るわけです。こちらは在ニューヨーク日本国総領事館のWEBSITEを参照してください。[i]

 

1, 永住権放棄のメリット

一番のメリットは、米国への税務申告の義務がなくなります。もちろん米国に賃貸物件や、投資資産がある人は別ですが、そうでない人は、米国の非居住者になりますので、米国での申告義務はなくなります。

もうひとつ大きなメリットが年金に関する課税です。多くの方が日米社会保障協定を利用して、日米両国から年金を受け取ることができます。しかし日米の租税条約の第17条において、年金等の受給は居住国で課税が定められています。[ii]したがって両国から年金に関して課税されることはありません。

 

2, 永住権放棄のデメリット

まずは米国を訪れるのに、観光ビザなどでしか入国できなくなります。通常最高3ケ月が滞在期間の最大期限になります。しかし米国でご自身のビジネスをお持ちの方は、新たにEビザなどを取ることによってあまり滞在日数を気にしないで、米国で仕事をすることも可能ではないかと思います。この分野は、必ず移民法の弁護士の人に良く相談されてください。

米国の生前信託ですが、米国の非居住者になると管理人(Trustee)が米国非居住者になると信託自体が無効になるという話を信託、遺産財団専門の弁護士に聞きました。生前信託をお持ちの方はご注意ください。

そして、米国連邦遺産税法の見地からは、当然米国非居住者になりますので、米国居住者が享受できる高額($11.7ミリオン―2021年度)の控除額を使用できません。米国に資産を残される人は要注意です。

 

3, 永住権維持のメリット

こちらも移民法弁護士の世界ですが、再入国許可書などを取得して数年間は永住権を維持できます。もちろん維持費用がかかり、いろいろな制約があるでしょうが、この数年間の間に米国にもう一度戻つて、米国で永住するという機会が残されます。

また、Covered Expatriateと言って、出国税の対象になりうる範疇に入ることは、永住権を放棄していないので、ありません。資産が特にあるかたは、永住権の維持は、ひとつの重要な選択肢になり得ます。なお、この場合の永住権の維持の意味は、税務上で米国居住者であることを継続する意味で使用しています。

 

4, 永住権維持のデメリット

米国居住者のままですから、毎年同じように米国の税務申告書をファイルし続けないといけません。住所は日本になりますが、米国居住者としてForm 1040 を使い申告します。この際、州に賃貸物件などがない限り、州の申告は必要なくなります。

年金に関しては、受給メリットを受けることができません。日米両国から年金等の所得に対して課税されます。

次のデメリットは、上記2の生前信託と遺産税のデメリットが存在します。ここでの注意点は、所得税など殆どの税では、永住権保持者は米国居住者ですが、米国遺産税の立場からは、非居住者と認定されてしまうリスクが大です。こちらは十分注意を払いましょう。

 

5, 米国籍取得のメリット

やはり米国に自由に入国できるのが大きなメリットです。子供さんや家族が残っている場合に、期間を気にしないで米国に滞在できるのは大きなメリットですね。

また3で記述したようにCovered Expatriateにはなりようがありません。

 

6, 米国籍取得のデメリット

米国での税務申告の義務が継続し、年金等の所得も両国から課税されます。

日本での滞在は在留資格を得ての居住ですから、なんらなかの制約は必ずあると思います。入国や滞在日数も制限されてしまう可能性が高く、煩雑な手続きも予想されます。

さらに日本では住宅ローンを組めないや、投資活動で制限されるなどの話を聞いたことがあります。

最後に日本の国籍法で、米国籍などの外国籍を自発的に取得した場合は、日本の国籍が消失すると決められています。領事館のWEBSITEには、詳しくリスクについて書かれておりますので、参照してください。

 

CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。

この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

なおこの記事に関するご質問はお気軽に藤本光まで。[email protected] YouTubeでも同じ内容を説明しています。 CDH会計事務所で検索してみてください。

 

[i] https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/jp/a1/01.html

[ii] https://www.treasury.gov/resource-center/tax-policy/treaties/Documents/japantreaty.pdf