Author | Tomoko Naoko
アメリカでビジネスを始めるにあたっては、米国の会計ルールを理解しておくことがとても重要です。日本とアメリカの会計基準は、近年かなり似てきているとはいえ、まだ完全に一致しているわけではありません。この記事では、アメリカに拠点を置く日系企業の財務諸表でよく問題となる、日米会計基準の代表的な2つの違いについてわかりやすくご説明します。
1. 有給休暇の引当金の取扱い
アメリカでは、有給休暇の未使用分も「負債」として計上する必要があります。
たとえば、従業員がこれまで勤務してきた分の有給休暇が残っている場合、将来その休暇を取られた際に会社は給料を支払う義務があると考えられます。したがって、期末時点で未使用の有給休暇がある場合、その分を引当金として負債に計上するのがルールです。
一方で日本では、有給休暇を使い切れなかった場合でも会社がその分を買い取る制度はあまり一般的ではありません。そのため、日本基準では有給休暇の引当金を計上する必要はないとされているのが実情です。
ポイント:米国では、有給休暇の残日数を把握し、帳簿上でしっかり負債処理することが求められます。
- 法人税の「不確実性」に関する会計処理(ASC 740-10/旧 FIN 48)
このルールは、「将来税務調査があった場合に、追加で課税されるかもしれない」税金に備えて負債を計上するという考え方です。
日本との違い
日本ではこうしたルールはなく、「課税が確定してから」会計処理をするのが一般的です。しかしアメリカでは、課税リスクが明らかになった時点で、会計上処理する必要があります。
適用の背景と要点
この会計ルール(ASC 740-10)は、もともと上場企業のみが対象でしたが、現在では非上場企業も対象です。これを適用しない場合、米国会計基準に準拠していないとされ、監査報告書に「会計基準からの逸脱」と記載されてしまいます。
どのような作業が必要か?
企業がこのルールに従うには、以下のような税務リスクの棚卸し作業が必要になります。
- 時効が成立していない過年度の税務申告書の見直し
- 各州の売上・資産状況などから、申告漏れがないかを確認
- 税務調整項目(M-1など)の確認
- 会計方針や過去の財務諸表のレビュー
- 過去の税務調査の結果の確認
- 移転価格税制(親会社などとの関係会社取引価格が妥当か)の分析
特に、移転価格税制のレポート作成は重要かつ時間のかかる作業であるため、事前に準備しておく必要があります。
認識」と「測定」
リスクが見つかった場合には、会計上の負債として計上するべきかを判断(認識)し、さらにいくら計上するか(測定)というステップを踏みます。
- 「more likely than not(50%以上の可能性)」で税務当局から否認される場合には負債として計上
- 税債務の金額を見積もり、会計処理を行う
- これらの判断過程をすべて書面化
最後に:ルールを理解して、税務リスクに備える
このルールを導入することで、企業は税務リスクをより客観的に見直すことができるようになります。初年度は準備が大変ですが、以後は定期的にリスクを確認・記録・更新していくことが求められます。
税務リスクへの対応力が高まれば、税務調査への備えができるだけでなく、経営判断にも安心感が生まれます。
ご相談ください
ASC 740-10の適用や、米国会計に関するご不明点がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の法的・税務アドバイスを行うものではありません。具体的な対応については、必ず専門家へのご相談をお願いいたします。
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