アメリカで課税される日本人 ― 税務義務は国境を超える
アメリカで就労ビザや永住権(グリーンカード)を取得して生活している日本人は、「移民ビザ保持者」という立場になります。このステータスには、単なる在住の資格を超えた意味があります。特に、税務の観点からみれば、たとえアメリカに一時的に滞在しているとしても、移民ビザ保持者は米国の税法上「居住者(US Resident)」とみなされ、全世界所得に対して米国の課税対象となります。
実際に、IRS(アメリカ国税庁)はグリーンカード保持者に対し、米国外に住んでいたとしてもすべての所得を米国へ申告する義務があると定めています。さらに、外国金融口座(例:日本の銀行口座)を10,000ドル以上保有する場合には、FBAR(外国銀行および金融口座報告)の提出が求められ、場合によってはFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)にも対応が必要です。これらはすべて、アメリカという法制度の下で生活する者に課せられた正当な責任です。
参政権なき課税 ― 代表なくして課税なしの現実
たとえ長年アメリカに居住して納税をはじめとしたアメリカ税務上の義務を果たしても、日本人は米国市民権を取得しない限り、アメリカの選挙には投票できません。すなわち、税金は支払っても、政治的な意思表示=参政権は持たないという構造になっています。
これは、「代表なくして課税なし」という近代民主主義の理念とは裏腹に、移民ビザ保持者は納税を通じて社会的な義務を果たしながらも、意思決定の場に関与する手段を持たないことになります。しかし、アメリカにはアメリカの制度とルール原則があり、それを尊重することが滞在者としての基本姿勢でしょう。だからこそ、税務・報告義務を果たすという姿勢が求められると考えることができます。
日本人であることの特権 ― 選挙権を海外から行使する
一方で、日本国籍を持つ日本人には、日本国籍がある限り、日本国内に居住していなくても、日本の国政選挙に参加する権利「選挙権」があります。これは「税金を払っているから」与えられる権利ではなく、「日本国民であるからこそ」与えられている基本的な主権の一部です。アメリカに住んでいても、衆議院や参議院の選挙、さらには最高裁判所裁判官の国民審査などに、在外選挙制度を通じて投票することができます。
この選挙権を行使するには、在外選挙人名簿への登録と「在外選挙人証」の取得が必要であり、これは現地の日本大使館や総領事館を通じて申請します。直近では今年2025年7月には参議院選挙が予定されています。在外公館(大使館・総領事館)での投票や、郵便投票、一時帰国中の投票など、複数の投票手段があります。在外選挙人証の申請から交付までは通常2~3か月ほど時間がかかるため、早めの準備が不可欠です。
クロスボーダー民としての責任と選択 ― 税と一票をつなぐもの
アメリカの移民ビザを保持する日本人には、アメリカの税務上の義務が課せられると同時に、日本国籍者としての権利も存在しています。たとえアメリカに長く住んでいても、また、グリーンカードを放棄する人や、すでに放棄した人でも、日本国籍を維持していれば日本の選挙権は失われません。
2025年7月には参院選挙が予定されています。アメリカの税務ルールには誠実に従い義務を果たす一方で、海外に居住する日本国民として、自分の未来、日本の未来、そして日本の次世代の未来を選ぶ一票を届ける機会となります。それこそが、クロスボーダー民である私たちが果たすべき「二つの責任」ではないでしょうか。「日本人である自分の一票」を大切にしていきましょう。
参考:
在アメリカ合衆国日本国大使館Embassy of Japan in the United States of America 在外選挙
https://www.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/zaigai_senkyo.html
最高裁判所裁判官国民審査制度の改正(在外国民審査制度の創設)
https://www.us.emb-japan.go.jp/j/zaigai_senkyo/senkyonews022123.pdf
全米各総領事館案内 大使館と各総領事館の管轄地域 住所等連絡先
https://www.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/kankatsu.html
在外選挙・国民投票・国民審査 日本国内における投票
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/senkyo/vote3.html
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