経営者による内部統制の無視、マネジメント・オーバーライド(management override) という言葉を聞いたことはございませんか?マネジメント・オーバーライドは内部統制の中でも非常に大きなリスクとされており、監査では必ず特定されるリスクです。では、マネジメント・オーバーライドとはどのようなものでしょうか?

マネジメント・オーバーライドとは、経営者が不当な目的のために内部統制を無視ないし、無効にならしめることを意味します。 つまり、社長や部長など権限を有する管理職によって、誰のチェックも受けずに独断専行で行われる不正のことを指し、内部統制において最も大きいリスクです。

マネジメント・オーバーライドの例としては、経営陣等に命令され(パワー・ハラスメ ント)、売上の計上時期を不当にずらして年度末までに架空売上を計上する、在庫や売掛金の引当金の金額、また固定資産の減損等を操作し結果を操作する、重大な取引や普段あまりない取引に関係する記録や、取引の条件(筆者注:契約書の条項なども含む)を変更する、等が挙げられます。実際にパワー・ハラスメントにより日本の上場企業で財務諸表の不正が行われ、この不正が後ほど明らかになり、大問題に発展したケースがあります。特に従業員は上司に逆らうと自分の地位も危うくなると考えるため、たとえ上司からの依頼が不正を行う指令であったとしても断れないことがよくあります。

マネジメントオーバーライド防止策

では、このような経営陣の権力による不正を無くすために具体的にどのようなことを行うべきでしょうか?

まず第一に、取締役会が監督機能を発揮する必要があります。例えば一人の経営陣が不正を行う指示を部下に出さないように取締役同士が監督を行い、財務諸表やその他の資料を定期的にチェックして不正が行われていないか確認する必要があります。また、親会社が日本にある米国子会社の場合、親会社の経理部が財務諸表のレビューを定期的に行い、内部監査部や社内統制が整えられているか、またそれらが機能しているかを定期的にチェックする必要があります。

次に、有効な内部告発制度が構築されている必要があります。発見される企業不祥事の多くは、実は企業内部者からの告発がほとんどです。上記にも述べましたが経営者不正は通常経営者からの指示に基づき従業員が実行することが多いので、従業員は経営者不正の事実について多くの情報を持っていると考えられます。内部告発を考えている、誰かに不正を通報したい、でもどこにどうやって通報したら良いか分からない、自分が通報したことがばれてしまったら解雇されるかもしれない、と考える従業員も大勢います。そのために従業員ハンドブックに内部告発制度を記載し、従業員が上司や人事に不正告発を行うことができる体制を作っておくことが必要です。そしてこの告発制度を構築しているだけでも経営者自身が内部告発のプレッシャーにさらされるため、不正行動を自律できる可能性があります。しかし、実際に制度を作ったとしても、制度を利用することにためらいがあったり、あるいは周知されていなかったりする場合には意味がありませんので、従業員にこの制度を知らせ、通報を行いやすい環境を整えることの他、そもそも経営者不正を通報できる仕組み(例えば通報先に日本の監査役を含める等)、そして告発が行われた場合は迅速に調査を行い、かつ会社が告発者を守る体制が整っていることが極めて重要となります。

内部告発制度があるかを確認し、ある場合は機能しているかどうかご検討いただき、万が一きちんと整備されていない場合は制度構築をお勧めします。内部告発制度や内部統制に関しましてご質問等ございましたらCDH会計事務所の中尾 [email protected] までお問い合わせください。