在庫を保有されている会社はかならず少なくとも一年に一回は棚卸を行われておられるかと思います。棚卸を行う際、会計士が立ち会っているのをご覧になったことはございませんでしょうか?在庫を保有されている会社の棚卸に会計士が立ち会う作業は監査の中でも非常に重要な作業です。監査人が棚卸に関してどのような手続きを行うのかを理解することで、棚卸の重要性、目的、正しい棚卸手続きを理解していただくことができ、スムーズに棚卸作業を行うことができるかと思います。

棚卸の重要性

帳簿上の在庫は単価と数量をかけた金額となります。よって正しい数量を記帳していることが正しい在庫を計上することになり、棚卸は非常に重要です。実際に棚卸を行った際に数えた個数や数量と帳簿の数字とが異なっていた場合、帳簿の数字を調整する必要があります。例えば、とある商品を数えた際、個数が100個であったが帳簿上の個数が1,000個であった場合、帳簿上の在庫を900個減らす必要があります。在庫を減らすということは売上原価が増えるということになりますので会社の利益に大きな影響を与えます。また、帳簿の個数や数量と実際に数えた際の個数と数量が大きく違っていた場合、毎日の在庫管理が適正に行われていない、ということにもなりますのでなぜ大きな差異が出たのか、分析する必要があります。棚卸は決算業務の一部の重要作業としてお考えいただきたいと思います。

棚卸に関する監査人の仕事

監査人はクライアントが行う実地棚卸の現場に同席し、その実施状況を視察、あるいは一部について実際に監査人自身がカウントすることによって、在庫数量の妥当性を確かめる必要があります。ただ、監査人は棚卸の立ち合いを行う前にも行う作業があります。

  • 棚卸を行う前にクライアントの棚卸方法を理解し、棚卸方法が妥当かどうかを検討します。そのためには会社に棚卸方法を文書化していただきます。文書化された棚卸方法に目を通し、改善すべき事項があればその旨を連絡いたします。

 

棚卸方法は会社によって異なります。例えば、カーボンコピーを使う会社もあれば(個数を記入後、一部は在庫がある棚か在庫に貼り付け、もう一枚は経理に渡す)、会計システムから抽出された在庫のリストに基づいて数えていき、数え終わった商品はシールを付けて再カウントしないようにする、バーコードで管理されている会社もあるかと思います。また、監査人は一人が数えるのか、二人チームとなって数えるのか、監督者によるスポットチェックを行うか、数え間違いがあった場合はどうするのか、棚卸日前後の入出荷はどのように管理されているか、棚卸中入出荷や生産は行っているか?在庫でないアイテムは“Do not Inventory”というラベルが貼られているか、等を確認します。

 

  • 在庫の実在性を確認するため、在庫のリストから数える商品を選びます。数える個数は会計士によって異なるかと思いますが、合計金額(単価x数量)の大きい商品を中心に選びます。棚卸前の直近の在庫のリストを入手し、基本的には数えに行く前に選びます。

会社に到着後の棚卸の監査手続きは下記となります。

  • 従業員が数えているのを立ち合い、従業員がクライアントが作成した棚卸方法に基づいて数えているかを確認します。
  • あらかじめ選んでおいたサンプルを実際にカウントします。
  • 網羅性を確認するため、倉庫や工場にある在庫から数えるアイテムをランダムに選び(まだ数えていないもの)、数えます。また、カウントシートからもサンプルを選び、数え、クラアイントとの数量に差異がないかを確認します。
  • 上記2と3において、クライアントが数えた数量と会計士が数えた数量に差異が発生した場合はクライアントに再確認してもらい、クライアントも差異が発生していると認識した場合、棚卸の際に使用したカウントシート(紙を使用している場合)の数量を書き換え、棚卸の結果を取りまとめしている担当者にも数量に変更があった旨を伝えます。
  • 上記4の後、数えていない商品で数え間違いがないかを確認するため、追加で商品を数えます。数える個数やどこを数えるかは会計士の判断によります。
  • 棚卸に関して質問を行います。例えば長い間売れないで残っている在庫はあるか、委託在庫はあるか、Bill and hold取引(商品を出荷していないにも関わらず商品代金を請求した)がないかどうか、等。
  • 帰る前に倉庫や工場を見渡して在庫の数え漏れがないかを確認します。カーボンコピーやシールは在庫や棚に張り付けてあり、数えられているかがわかるため、コピーやシール漏れがないかどうかを確認します。

棚卸終了後はクライアントが会計システム上、棚卸調整を行った後の在庫のリストを入手し、試算表の数字と一致していることを確認します。そして数えた商品の個数が帳簿の個数と一致しているかを確認します。正しい数量が帳簿に反映されていない場合、クライアントに差異が発生している理由を確認します。カウントシートの数量を直したにも関わらず経理部に伝わっていなかった、棚卸結果の集計をする際に間違えた数量を入力してしまっていた等の理由で差異が発生している場合があります。

このように、会計士は棚卸を立ち会うだけではなく、棚卸が終わった後も正しい数量が帳簿に反映されていることも確認する必要がありますので「棚卸」は帳簿の正しい個数を入れ終わるまで終わらない、とお考えいただければと思います。

棚卸、あるいは在庫監査についてご質問等ございましたらCDH会計事務所の中尾 [email protected] までお気兼ねなくお問い合わせください。