永住権者マニュアル

永住者は生前信託(英語でLiving Trust)を専門の弁護士に作成してもらわないといけません。その理由を説明しましょう。

日本では人が亡くなると、その資産は資産を受け取る相続人に直接移動します。第三者は介しません。しかし米国では、裁判所の管理下の元、遺産管理人が決定されて遺産の分配を行います。これがプロべート(ProbateあるいはSurrogate)といわれる裁判所が介入する形を取る米国のプロセスになります。日本語では「遺言検認手続」と訳されます。

英国に起源を持つこのプロべートの仕組みは米国で進化する間にさらに厳格になり、殆どすべてのステップで裁判所の許可を得ないといけないと前に進まないものになりました。ですから時間と手間がかかるのです。

そこでリビングトラスト(Living Trust)(日本語では生前信託)と呼ばれる制度がアメリカで発展してきました。このリビングトラストを作ることで、上記のプロべートを避けることができます。

永住者がプロべートを避けないといけない理由は以下の通り:

第一に時間とコストの問題。プロべートのプロセスが最低でも半年以上かかり、大変長い期間で行われ、裁判所の管理下にあるために専門の弁護士を使ってこのプロセスに参加しないといけない。その結果、大変なコストがかかる。

皆様の周りにも資産がアメリカでフリーズされてしまって大変困ったという話を聞かれたことがある人がいらっしゃいませんか?

受け取る側としてはできるだけ早く遺産を受け取りたいのに、それができません。

第二に裁判所という公の場で家族間というそもそも私的な関係を説明しなくてはならず、家族間の仲たがいなどが第三者に明らかになってしまう。個人のプライバシーが保護されません。家族が不仲の場合に骨肉の争いが裁判者という公の場で明らかにされてしまいます。

最後に、亡くなられた方の生前の意思通りに最終的な決断がなされない場合が往々にしてあります。例えばイリノイでは遺書がない場合は配偶者と子供に50%ずつ財産が分配されます。しかし子供がまだ小さく、高額の家のローンが残っている場合はどうでしょう? 残された配偶者としては全額配偶者のコントロール下に遺産を置いてくれないと、自宅を失ってしまうことになってしまいます。

生前信託を作ることで、プロべートを避けられる理由:

プロべートがトラストとは土地、現金、株、債権といった特定の資産を意図した人(受益者)に移転して、その資産を管理支配できる法的に人格を持たせた取り決めです。資産がトラストに移された時点で、個人の遺産ではなくなり、必然的にプロべートのプロセスを受ける必要がなくなるからです。

生前信託は州の遺産法に精通した弁護士が作成しますので、本人の意図されたかたちで遺産が移動されます。一見複雑ですが、生存中は信託自体を本人がコントロールできますので、自分の資産であるかのように自由に処分ができます。例えば自宅を販売するような場合でも生前信託の名義になっているからといって複雑な手続きにはなりません。

その他のポイント:

  • 永住者に限らず米国に資産を持っている人にはこの生前信託を作ることをお勧めします。例えば非居住者つまり日本に住んでいる場合でも米国に不動産を維持している場合にも生前信託がプロテクションになります。
  • 普通生前信託は、遺書や委任状などの他の書類と一緒に弁護士事務所で作成します。基本的に本人が出向いていかないと作れません。
  • 定期的にアップデートが必要です。資産の内容も本人の意思も家族構成も変わります。毎年一定時期に見直して、弁護士にアップデートしてもらいましょう。
  • 遺産税対策で米国では生前信託と同時に生命保険の制度が発展してきました。生命保険が米国で非常に発展したのは、信託の発展と密接にかかわりがあります。
  • 生前信託以外にもプロべートを避ける方法があります。財産を共有名義(Joint Account)にすることと、受取人(Beneficiary)を指定することです。

生前信託作成のコストと年間の維持費用

ヨーロッパで生前信託を作成して、大変コストがかかったという話を以前聞きました。米国では通常$2000~$3000の弁護士費用で一式の書類を準備できます。弁護士費用以外のコストはかかりません。(エステートプランニングと呼ばれます。)しかし読者の方が良くご存じの通り、複雑であればあるほど、また資産が増えれば増えるほど弁護士費用がかさみます。具体的には複数の州に資産がある場合などが該当します。

維持費用は銀行などの第三者に資産の管理者-これを受託者(Trustee)になってもらわない限り発生しません。つまり本人が受益者であれば良いわけです。

生前信託の税務申告:

個人が信託に資産を移転すると、本人の資産ではなくなりますが、アメリカの税法上では「みなし自益信託」(Grantor Trust)と判定される場合があります。それは移転させた人が以後もその資産、もしくはその資産から得られる収益の分配に関して、一定の支配権を有していると判断される場合です。実務上はこちらのケースが殆どです。この場合は別途に税務申告をする必要がありません。

そうでない場合は信託は法的な人格者として信託の税務申告(Form 1041)を提出義務があります。

CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。なぜならビザでの米国居住者、永住権者・日系人一世(米国市民)は、日米の経済そして、国際交流を支えるまさに「縁の下の力持ち」だからです。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。

この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解してもらう目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ず税務・法務などの専門家と相談をしてください。

なおこの記事に関するご質問はお気軽に藤本光まで。[email protected] (630) 253-0215