売掛金は貸借対照表項目の中でも非常に重要な勘定科目です。また、監査を行うに際しても売掛金は最重要項目の一つであり、「売上の架空計上」はどの会社の監査を行う際にも常に特定されるリスクです。今回は売掛金の具体的な監査手続についてお話させていただきます。売掛金の監査手続きを知ることによって、御社の決算作業にお役立て頂けましたら幸いです。

売掛金のアサーション

以前の記事で経営者のアサーションというお話をさせていただきましたが、売掛金の監査で重要とされているアサーションについて説明いたします。

  • 一番重要なアサーションは実在性です。実在性とは資産や負債が実際に存在していることを示します。実在性が一番重要であると考えられている理由は監査上、売上や売掛金が不正に過大計上されている可能性がある、と考えられているためです。株主はまず売上を気にしますので会社としても最重要視している科目であり、この売上を多く見せるために過去に実際に売上を架空計上していたというケースは多々あり、大きな事件としてニュースで取りあげられたこともあります。
  • 次に重要なアサーションは期間帰属の適正性(Cutoff、カットオフ)となり、取引や会計事象が正しい期間に記帳されていることを示します。このカットオフが重要になる理由としては売上と売掛金の計上を意図的にずらして過大計上をする不正が行われる可能性があるためです。例えば、12月決算の会社で、売上は商品を出荷した時点で認識する場合、商品を出荷したのは1月であっても、今年度の売上を増やしたいために意図的に12月で売上を計上する、ということが考えられます。
  • 最後に重要となるアサーションは正確性及び評価の妥当性(Accuracy and Valuation)、 資産が適切な価格で計上されていることを示します。このアサーションは主に売掛金の貸倒と関連しています。例えば、顧客の経営状態が良くないために回収が滞っている場合は貸倒引当金を計上し、回収見込みがない売掛金を資産から減らすことになり、結果として会社にとって損失となります。監査上、会社としては損失を増やしたくないと考え、意図的に貸倒損失の計上を先延ばしにする、ということも考えられます。よって監査上、貸倒引当金が正しく計上されているか?を検討することは重要な作業となります。

では次に具体的な売掛金の監査作業について説明させていただきます。

売掛金の監査作業

  • 売掛金の滞留表を入手し、滞留表の残高と試算表の売掛金の数字が一致しているかを確認。差異が発生している場合は差異内容の資料を依頼し、チェックする。
  • 売掛金の実在性を確認するため滞留表から残高確認を行うインボイスを選ぶ。インボイスを選び終わったらクライアントに売掛金の残高確認書の作成を依頼する。
  • 残高確認書をクライアントから入手後、各顧客先に確認状を送る(Eメールで送ることが多い)。確認状は監査人が送る。
  • 返信されてきた確認状の内容をチェックし、差異が発生していないかを確認する。差異が発生している場合はクライアントに連絡をし、差異の追求を依頼する。
  • 返信がない顧客先に再度確認状を送る。それでも返信してこない場合は代替的手続きとして、期末以降に入金がないかを確認する(クライアントに入金資料を依頼する)。もし入金がされていない場合は出荷資料やインボイス等、売上がいつ計上されたのか(売掛金が期末で実在しているか)を確認する。
  • 売掛金の滞留表で滞留している売掛金がないかをチェック。滞留している売掛金の回収状況をクライアントに質問。期末以降に回収されていれば回収されたことを示す資料を入手。また、回収状況や顧客の経営状況によっては追加で引当金の追加計上を提示する。
  • 期末以降(12月決算の場合は1月や2月)にクレジットメモ(売上に関する取引の減額(値引き・返品など)に対して発行する当方側の支払い義務を相手側に通知する書類)が発行されていないかを確認。期末以降に大きな返品等があった場合、監査時点では売掛金は回収見込みがないと判断され、期末時点で売掛金を減らす処理を行う必要がある。
  • 売上が正しい期間に記帳されているかを確認するため、期末近くに(期末前、期末後の)計上された売上からサンプルを選び、証拠資料を依頼する(請求書や出荷資料等)。また、売上の計上基準は会社によっては売上のタイプによって異なるため(機械設置と部品販売では売上の認識基準が異なる、等)
  • その他、通常と異なる要件での販売について(回収が1年半後等)等の質問も行う。

上記が主な作業となりますが、クライアントや状況によっては追加で別途作業を行うこともあります。

監査人が行う売掛金の監査作業をご理解いただくことで決算上どこに注意を向けないといけないかを考慮して締めを行っていただくことで監査上での指摘事項も減り、監査作業もよりスムーズに進むことで経理担当者の負担軽減にもつながります。売掛金監査に関しましてご質問等ございましたらCDH会計事務所の中尾 [email protected] までお問い合わせください。