出生地はアメリカだが幼少期に日本へ帰国し、その後ずっと日本の教育を受けて大学を卒業し、日本で就職した人が、つまり、アメリカのことを特に意識しないまま人生を過ごしてきた日米の二重国籍者が、キャリアアップのために米国留学を考えたり、勤務先の留学制度を利用して米国留学を目指す場合に直面する可能性のある、税務上の問題についてお話ししたいと思います。

市民権に基づく課税と居住地に基づく課税

日本が採用している居住地に基づく課税 (Residence-Based Taxation/RBT) とは、日本に居住しているのなら全世界の所得に対して日本へ所得税を納めますが、日本非居住者は、日本国内にある収入源から発生した所得のみに課税されます。

一方、市民権に基づく課税 (Citizenship-Based Taxation/CBT) は、市民や永住権者がどの国に住んでいようと、全世界の所得に対して税金がかかるシステムを指します。米国はこのシステムを採用しており、アメリカ市民は、アメリカに住んでいなくても米国外での所得も米国税に従属します。

認識されていない税務申告義務

米国生まれで日本育ち、日本で納税のみをしている二重国籍者は、米国の税務申告義務の存在を知らず、留学時に大きな問題に直面する可能性があります。冒頭のような背景を持つ人(偶発的アメリカ人)は、アメリカの税務申告義務の存在を知らないことが多いのです。物心がついた時には日本に帰っており、その後もずっと日本の生活を続け、ご両親から特にお話のないまま大学を卒業して就職をしているケースです。海外留学を目指している人は、ある程度の留学資金を貯めていることが多いため、結果的に何年もの間、銀行口座の報告をしていない場合もあります。

このような申告義務を怠っているとするなら、アメリカ留学を機に突如として大きな問題に直面するリスクがあります。過去の税金の未納、罰金、利息などが請求されることになるからです。

留学前にするべきこと

1.アメリカ市民としての入国、入学に対し自分の気持ちを問う:

米国に入国・大学へ入学する際は、アメリカ市民として行動する必要があります。つまり、米国に入国する際、アメリカ市民は米国パスポートを使いアメリカ市民として入国します。同様に、アメリカ市民がアメリカの大学へ入学する際には、アメリカ市民として入学します。これまで自身のことをアメリカ人と意識していなかった場合、このような行動について違和感を覚えるかもしれません。一方で、外国人であれば米国留学時には学生ビザを申請する必要がありますが、アメリカ市民には不要です。留学後にアメリカでそのまま就職をしたいなら、労働ビザのスポンサーをしてくれる就職先を見つけるという制約を受けることもありません。留学や就職を考慮すると、米国籍を維持するメリットも多いでしょう。どうしてもアメリカ人として行動することに違和感を抱くのならば、アメリカ国籍を離脱する選択肢も出てくるかもしれません。逆に、米国籍を持つことを自分の強みやチャンスと捉え、目の前に広がる人生の大きな可能性を感じることもあるでしょう。

2.これまで怠っていた税務申告について調べて対処する:

既に日本で就職をし納税を納めている人は、高い確率でアメリカの税務申告義務を怠っていると考えられます。この事実が分かった場合、日本にいるうちに、過去の未申告分の税務申告を解決しておくべきです。情報収集は日本にいる間がベストです。理由としては:

  • 申告内容に関する情報収集は日本にいるときのほうが格段に簡単。本人確認の書類提出や電話コールセンターのトールフリーが海外から利用できないなど、思いもしないところで困難がでる場合がある。情報収集は出来る限り渡米前に行い、情報整理を進めることが大切。
  • 留学中には様々なアルバイトの機会があり税務申告が必要になる。この正しい税務申告を行うために未申告問題を先に解決しておくことが大切。
  • 本来の渡米目的である勉強に集中することのできる環境を整えておくため。税務問題にかかりきりになり物理的にも精神的にも本来の勉強に打ち込めない状況になってしまことを回避することが大切。

3.ソーシャルセキュリティ―ナンバー(SSN)を取得する:

アメリカの税務申告ではSSN(納税者番号。日本のマイナンバーのようなもの)が必要です。出生時に、SSNを取得している人と、していない人がいますが、未申告問題の解決の際にも原則としてSSNが必要になります。渡米し税務申告をする際にも必ず必要になり、取得には数か月かかることもあるので、留学前に取得計画をすることが重要です。

ITIN (個人納税者番号。Individual Taxpayer Identification Number) を使うことはできないのですかという質問を受けますが、アメリカ市民は原則としてSSNの使用が必須です。

4.米国パスポートを取得する

米国の二重国籍者は米国への出入時には米国のパスポートを使用する必要があります。 米国パスポートを持っていない、あるいは、既に期限が切れている場合は、在日米国大使館と領事館で申請が可能です。

まとめ

米国生まれの日米二重国籍者が米国に留学する際、アメリカ市民として世界中の所得に対して米国税を納める「市民権に基づく課税」の義務があることを認識する必要があります。多くの日本での生活者は米国の税務申告義務の存在を知らない場合が多く、これが留学時に問題となる可能性があります。留学を考える際には、アメリカ市民としての入国や大学の入学手続き、過去の税務申告の解決、そしてソーシャルセキュリティ番号(SSN)や米国パスポートの取得・更新などの手続きを、適切に行う必要があります。

参考文献

アメリカで生まれ幼少の頃に日本に戻った二重国籍者を指す「偶発的アメリカ人」とはhttps://www.cdhcpa.com/ja/%e3%82%a2%e3%83%a1%e3%83%aa%e3%82%ab%e3%81%a7%e7%94%9f%e3%81%be%e3%82%8c%e5%b9%bc%e5%b0%91%e3%81%ae%e9%a0%83%e3%81%ab%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%b8%e6%88%bb%e3%81%a3%e3%81%9f%e4%ba%8c%e9%87%8d%e5%9b%bd/

Social Security Office: https://www.ssa.gov/

米国総務省 Dual Nationality https://travel.state.gov/content/travel/en/legal/travel-legal-considerations/Advice-about-Possible-Loss-of-US-Nationality-Dual-Nationality/Dual-Nationality.html#:~:text=U.S.%20nationals%2C%20including%20U.S.%20dual,enter%20and%20leave%20that%20country.

初めてのパスポート申請(大人16歳以上)https://jp.usembassy.gov/ja/passports-ja/first-time-passport-applications-ja/

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お問い合わせはハラー基江 [email protected]まで。CDHでは米国在住の個人の税務申告作成のサービスを行う傍ら、これらの人たちのさまざまな問題点、疑問点を解決、説明すべく日々努力しております。またこれらの人たちが抱える問題は日米の税法をはじめ、移民法、生命保険、リタイアメントのルールなど複雑、多岐にわたります。この記事は複雑な税法や、複雑な規制をできるだけ簡単にポイントだけを理解していただく目的でお伝えしています。したがって例外もたくさんあります。実際にアクションを取る場合は、必ずエンゲージメントレターを交わした上で税務・法務などの専門家に相談をしてください。

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