米連邦最高裁判所は、米国の富裕税制を再編成しかねない、広範囲に影響を及ぼす重大な税務訴訟を扱うことになりました。問題のムーア対米国訴訟(Moore v. United States)は、含み益への課税という争点を中心に展開され、このような課税の合憲性を掘り下げるものとして大きな注目を集めています。海外の含み益に対する1回限りの強制課税が憲法に違反するかどうかが争点となっており、同裁判所の判決は、米国における富に対する課税方法を根本的に変える可能性があります。

ムーア対米国の背景

ムーア対米国裁判の核心は、2017年減税・雇用法(2017 Tax Cuts and Jobs Act/TCJA)によって導入された強制本国還流税(MRT/ mandatory repatriation tax)にあります。この1回限りの課税は、特定の外国法人を保有する米国納税者を対象としています。この訴訟の原告であるチャールズ・ムーアとキャスリーン・ムーア夫妻は、「所得への課税を認める合衆国憲法修正第16条(16th Amendment to the U.S. Constitution)は、含み益にも適用されるのか」という重大な問題を提起しています。ムーア夫妻は、夫婦の外国企業への出資は配当や実現所得をもたらしておらず、したがって課税の対象にはならないと主張しています。

ムーア夫妻の代理人である主任弁護士アンドリュー・グロスマンは、連邦議会はあらゆる資金を単に「所得」とし、その後に課税することはできないと主張しています。しかし、第9巡回区控訴裁判所は、所得の実現は所得税の憲法上の前提条件とはならないと主張し、これに同意しませんでした。

最高裁の役割と論争

連邦最高裁判所は、Competitive Enterprise Instituteと全米規模の法律事務所であるBaker Hostetlerが支援するムーア夫妻の訴訟を審理することに合意しました。興味深いことに、ケイトー研究所(Cato Institute)や米国商工会議所など複数の外部団体が、この訴訟を有利に審議するよう裁判所に促す準備書面を提出しています。このような幅広い支持は、この係争の重要性を浮き彫りにしています。

この裁判の興味深い点のひとつは、サミュエル・アリト最高裁判事が、現在ムーア対米国裁判に関与している弁護士と過去に交流があったことです。アリト判事は、こうした過去の交流が原因で民主党からの要求があるにもかかわらず、この訴訟から退く正当な理由はないと断固として述べています。

遠大な影響

含み益への課税の合憲性に関する最高裁の差し迫った判断は、連邦議会の富への課税権限をめぐる論争に火をつけました。この訴訟は、富裕層課税の領域において画期的な反響を呼ぶ可能性を秘めています。

問題の核心は、所得の実現が憲法上の課税の前提条件となるかどうかです。ケイトー研究所のように、未実現利益への課税は議会に無制限の権力を与えることになると主張する者もいれば、会計上、資産にいつ課税することが許されるかの問題に過ぎないと主張する者もいます。

含み益課税の比較コスト

最高裁が原告を支持する広範な判決を下した場合、潜在的な財政的影響は計り知れません。兆ドル単位とは言わないまでも、数十億ドルの歳入を政府が失う可能性があります。司法省の試算によると、判決を本件で言及された特定の税金、強制本国還流税に限定しても、今後10年間で3400億ドルの損失が生じるといわれています。しかし、専門家は、もし裁判所が実現の定義を拡大し、相当額の課税所得が政府の手からこぼれ落ちることになれば、そのコストはさらに膨らむと警告しています。この判決の影響は、富裕税から国際税制まで、さまざまな側面に及ぶ可能性があります。

現実的な財務上の回避策

最高裁の判決にかかわらず、これまで個人や法人は、含み益への課税の影響を軽減するための実践的な財務戦略を考案してきました。よく知られた戦術に、”Buy, Borrow, Die “「買って、借りて、死ぬ」があります。この戦略は、分散された株式ポートフォリオを低利融資の担保として活用するもので、納税者は保有株式の納税を繰り延べることができる。 さらに、” step-up in basis”「ベーシスのステップアップ」を認める法律により、相続人は資産の当初の購入価格ではなく現在価値を主張することができるため、世代を超えてこのようなスキームを永続させることができます。

実現的な回避策とその影響

法廷闘争が繰り広げられる一方で、含み益課税の影響を軽減するために個人や企業が採用してきた実際的な回避策があります。「買って、借りて、死ぬ」のような戦略では、分散した株式ポートフォリオを低利融資の担保として利用することで、納税者は保有株式の課税を繰り延べることができます。こうした回避策の存在は、含み益課税の有効性と公平性に疑問を投げかけるものであります。

正義を求める声と不確実性

サミュエル・アリト判事には、ムーア対米国裁判に関与した弁護士との過去の交流から、この裁判からの忌避を求める声が上がっています。しかし、アリト判事は、忌避する正当な理由はないと断固として主張しており、この事件の争点性を浮き彫りにしています。 税理士は、最高裁の決定が自分たちの職業の状況を大きく変える可能性があることを懸念しています。パートナーシップ税制から負債課税、商品課税、会計規範全体まで、変更される可能性のある範囲は多岐にわたります。

結論

2023年12月5日の口頭弁論が近づき、法曹界が注視する中、ムーア対米国の結果は依然として不透明です。しかし、一つだけはっきりしていることは、この裁判が米国の税制史における決定的な出来事となる可能性があるということです。最高裁が伝統的な所得課税の理解を維持するにせよ、より広範な解釈への扉を開くにせよ、その決定は米国における富裕税課税の将来を形作るでしょう。判決は、2024年6月までに下されると予想されています。

参考:

Unrealized Gains Supreme Court Case Could Change Wealth Taxes https://www.kiplinger.com/taxes/unrealized-gains-supreme-court-case?utm_term=CC3B7673-E31C-4AB2-B056-6EACCEF0C071&lrh=cc8f5b93965abe5d06dbb1b9f00b09a5b05633fa5e328594198923ff17d54df9&utm_content=54EBF3EC-3174-464A-AF55-9FA966CEE85C

Supreme Court to consider ‘quadrillion-dollar question’ in major tax case https://thehill.com/homenews/4323743-supreme-court-moore-tax-case/

Here’s what a new Supreme Court case could mean for federal wealth tax proposals

https://www.cnbc.com/2023/06/28/how-a-supreme-court-case-could-affect-federal-wealth-tax-proposals.html

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